前橋地方裁判所 平成元年(行ウ)2号 判決 1991年3月27日
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、補助参加により生じたものを含め、全部原告の負担とする。
事実
第一請求
被告が、群地労委昭和六二年(不)第八号不当労働行為救済申立事件につき、平成元年三月二三日付でした不当労働行為救済命令を取り消す。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 補助参加人組合並びに補助参加人a、同b、同c及び同d(以下、右四名を「補助参加人四名」という。)は、昭和六二年一一月二五日、被告に対し、原告を被申立人として、同年九月二九日付で補助参加人四名に対しされた五日間の出勤停止を命ずる本件懲戒処分につき不当労働行為救済の申立て(群地労委昭和六二年(不)第八号不当労働行為救済申立事件。以下「本件申立て」という。)をしたところ、被告は、平成元年三月二三日付で別紙のとおり不当労働行為救済命令(以下「本件命令」という。)を発し、同命令は同年四月二〇日原告に交付された。
2 しかしながら、本件命令には、以下に述べるとおり、事実誤認が存する。
(一) 本件命令は、補助参加人四名を含む補助参加人組合の組合員らが昭和六二年八月一日に富士重工業株式会社伊勢崎製作所正門前においてした本件行動により、富士重工に施設管理上及び業務上格別の支障があったとは認められないとしているが、これは事実を誤認したものである。
すなわち、補助参加人らによってビラ配布が行われた場所は、富士重工の敷地内であったため、同社の総務課長が補助参加人らに対して、社有地でありビラ配布の許可もしていないことを告げたが、同人らはそのままビラ配布を続けたものであり、同課長としては、直ちにビラ配布を中止させたかったが、補助参加人らの人数が多く事実上中止させるのは困難であると判断し、午前七時五〇分にはやめるよう申し入れるに止めたのであって、補助参加人らが許可なく富士重工の敷地内でビラ配布を続けたことは明らかであるから、同社の施設管理権を侵害したことには相違ないものである。
また、原告からの出向者一五名を迎え入れる初日に、上記のような示威行動が行われたことは、富士重工の社員、特に出向者が就労する職場の職員に対して、不安感を与えるものであり、同社の業務遂行上支障がなかったとはいえないものである。
(二) 本件命令は、本件行動が富士重工と原告との信頼関係に及ぼした影響も重大なものであったとは認め難いというが、これも事実を誤認したものである。
すなわち、本件行動の当日、原告高崎運行部次長eが富士重工に謝罪に赴いたところ、応対した同社の総務部長fは、右e次長に対し、「初日にこんなことがあって従業員の間に動揺が出るのではないかと心配しています。」、「何かまた起きれば出向の受け入れについて考え直させて頂くかも知れません。会社のイメージの問題にもつながりかねませんし。」「二度とこのような事が起きないよう是非お願いいたします。」などと厳重な申入れをしているのであり、本件行動は、富士重工の原告に対する信頼を損ない、今後の出向受入れを取り止めさせる危険性を有し、その影響は大なるものがある。
なお、本件命令は、本件行動が富士重工と原告の信頼関係に及ぼした影響が重大でないことの理由として、本件行動について付近住民から富士重工に対して苦情や問い合わせ等がなかったことを挙げるが、そのような事実がなかったからといって付近住民が迷惑を被っていないとはいえないのである。本件行動における宣伝カーのマイクによる演説は、早朝の午前七時台に五〇分間にわたり切れ目なくなされ、音量も選挙運動におけると同程度であったのであるから、付近住民が多大な迷惑を被ったであろうことは想像に難くないところである。
(三) 本件命令は、本件行動の目的について、出向する組合員の激励とともに、会社の出向施策をめぐる紛争の実情及び国労の立場を出向先である富士重工の社員に訴えたものと考えるのが相当であるというが、本件行動の目的は、示威行動によって出向先に出向の受入れについて再考させ、原告の出向制度に支障をきたさせることにあったのであるから、この点についても事実誤認がある。
(四) 右によれば、本件行動は、その目的、態様ともに組合活動の正当性の範囲を逸脱し、原告の出向制度に重大な打撃を与えるおそれがあるにもかかわらず、被告は、事実誤認により本件行動は正当な組合活動であると認定し、その結果本件懲戒処分が労働組合法第七条第一号及び第三号に該当するとして本件命令をしたものであるから、本件命令は、事実誤認に基づいた違法なものである。
よって、原告は、本件命令の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2(一)ないし(四)の事実は争う。
三 被告の主張
本件命令は、労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条に基づき適法に発せられたものであるところ、被告が本件命令において本件懲戒処分を不当労働行為と認定した理由は、本件命令書記載のとおりであり、同記載の事実認定及び判断は正当であるから本件命令は適法である。
四 補助参加人らの主張
1 原告は、鉄道輸送業務の基本的な使命を忘れ、その使命を達成するための施策を怠ったままで、余力人員活用の名の下に、国鉄労働組合(以下「国労」という。)の反対を押し切って、出向制度を強行したものであるところ、本件行動は、このような原告並びに出向受入先企業たる富士重工及びその社員に対し、補助参加人組合の出向制度に対する見解を明らかにして出向制度の問題点を訴えるとともに、出向社員を激励するという正当な目的のもとになされた労働組合の情宣活動である。
2 富士重工は、出向を受け入れたことにより、出向元である原告とともに、出向労働者に対して、使用者の立場に立ったものであるから、原告の従業員等で組織される労働組合の組合活動の場となることも受け入れるべき立場にあったものというべきであり、本件行動が、富士重工の敷地内でなされたとしても、これをもって不当な組合活動ということはできない。
3 本件行動において行われた演説や、配布されたビラの内容は、出向制度の法律上及び労使関係上の問題点を事実として指摘したものであって、そこに虚偽や歪曲はないから、右演説やビラの内容をもって、本件行動が、不当な組合活動であるということはできないし、また、本件活動に参加した補助参加人四名を含む補助参加人組合員らの個々の具体的行動に、それ自体において、不当な組合活動と評価し得るようなものは何ひとつなかったものである。
4 本件行動は、富士重工の社員の始業時間である午前八時より一時間前から開始され、始業時間前に終了したものであるが、右時間帯は、本件行動の目的を達成しながらも、最も富士重工の事業活動に支障を及ぼさないものであり、実際、本件行動は、富士重工の事業活動に何ら具体的な支障を与えなかったものであるから、この点でも、正当な組合活動といい得るものである。
5 以上によれば、本件行動は、その目的、態様など、いかなる観点からみても、労働組合の基本的な活動形態として適法・正当なものであるから、本件行動を理由とする本件懲戒処分が不当労働行為となることは明らかであり、したがって、本件懲戒処分が不当労働行為であるとの前提の下になされた本件命令が適法なものであることは明らかである。
理由
一 請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 甲第一ないし第六号証、第八号証、第九ないし第一一号証の各一、二、第一二ないし第二四号証、第二七ないし第三四号証、第三五号証の一ないし六、第三六号証、第三七号証、第三八号証の一及び二の各一、二、同号証の三、四、第四七号証、第四八号証、第五一号証、第五二号証の一ないし三九、第五三号証の一ないし三、第五四号証、第五八号証、乙第一九ないし第三四号証、第三七ないし第四六号証、第五〇号証、第五三ないし第五七号証、第六〇ないし第六七号証、第六九号証、第七一号証、第七八ないし第八〇号証、第八四号証、第一〇六号証、第一二一号証、第一二四ないし第一四二号証、第一四六ないし第一五〇号証、第一五二ないし第一五五号証、第一五七ないし第一七一号証、証人e、同gの各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
1(一) 原告は、昭和六二年四月一日、日本国有鉄道改革法に基づき日本国有鉄道が経営していた旅客鉄道事業のうち本州の東日本地域(青森県から静岡県の一部までの一都一六県)の事業を継承して設立された会社である。
(二) 補助参加人組合は、国労及びその下部の労働組合である国労東日本本部に所属する組合員のうち、原告の高崎支社管内の地域に勤務する社員等で組織する国労及び国労東日本本部の下部の労働組合であり、補助参加人a(新前橋電車区分会長代理)、同b(高崎運転所書記長)、同c(前橋支部青年部書記長)及び同dは、いずれも原告の社員であり補助参加人組合の組合員である。
(三) 原告には、国労東日本本部のほか、東日本旅客鉄道労働組合(以下「東鉄労」という。)、東日本鉄道産業労働組合(以下「鉄産労」という。)、JR東日本鉄輪労働組合(以下「鉄輪労」という。)、鉄道医療協議会(以下「医療協」という。)等の労働組合がある。
2(一) 原告の昭和六二年四月一日設立当時の社員数は、約八万二五〇〇人であり、そのうち高崎運行部の社員数は、約四三〇〇人であった。右当時の旅客運送事業(バスを含む。)に必要と見込まれた社員数は、約七万三〇〇〇人(高崎運行部に必要と見込まれた社員数は、約三六〇〇人)であったから、全社的には約九五〇〇人(高崎運行部においては約七〇〇人)の余力人員が存在していた。
(二) このように原告は、設立当初から社員の一割強に当たる膨大な余力人員を抱えていたことから、これらの余力人員をいかに活用するかが、原告が順調に発展するか否かを左右する最大の眼目のひとつであった。原告は、このような余力人員の活用策として、駅などにおける直営店舗の営業を行うことはもちろんのこと、従来は下請けに出していた車両清掃等の業務を直轄化するとともに、駅などに設置する自動販売機における飲料水の販売等の新規事業を行うなどして、種々業務を開発拡大して余力人員の吸収に努めていたが、それにも限界があるため、多数の余力人員の働き先を、他社への出向に求めざるを得ない状況にあった。他方、原告は、余力人員活用策としてばかりでなく、旧国鉄時代には親方日の丸的発想に浸っていた社員に、民間企業たる原告にふさわしい意識と能力を身につけさせ、また、関連企業の育成のためにも、他の民間企業への出向が極めて有効であるとの判断のもとに、積極的に出向制度を推進することにした。
(三) そこで、原告は、右のような観点から、昭和六二年五月二六日付で、「関連会社等への出向の推進について」と題する書面を発し、前記各労働組合に対し、出向制度の推進を提案した。
(四) これを受けて、東鉄労、鉄産労、鉄輪労、医療協の四労働組合は、いずれも同月二八日付で、原告との間で、「出向の取扱いに関する協定」を締結した。
3(一) 国労は、原告設立前には、国鉄分割民営化に強く反対するとともに、右分割民営化に伴う国鉄ないしは国鉄清算事業団及び分割された各社の施策に強く反対してきたものであり、このような歴史的経緯もあって、国労東日本本部は、原告設立直後から、原告の打ち出す種々の施策(その中には、出向制度も含まれていた。)に対して反対の立場を唱えており、右施策そのものや国労組合員に対する原告の業務命令、懲戒処分等をめぐって、国労側から各地の地方労働委員会に対して多数の不当労働行為救済命令の申立てがなされるなどしており、原告と国労東日本本部及びその下部組織たる各地方本部との間には、深刻な対立関係が生じていた。
(二) 国労東日本本部は、国鉄当時に余剰人員対策の一つとして実施された派遣制度においては、派遣される職員の個別の同意が必要とされていたこと等を踏まえ、昭和六二年五月二五日付の文書で、出向は募集により行うこと、強制強要はしないこと等を原告に申し入れたが、これに対し、原告は、就業規則、出向規程等により人事の一環として出向を行うとの見解を示し、同月中に三回の団体交渉を持ったものの、両者は合意に至らなかった。
(三) 原告は、同年五月二九日、団体交渉の席上において、国労東日本本部に対し、同年六月一五日以降出向を実施する旨を通告した。
(四) 国労の各地方本部等は、出向の実施に対して、各地の地方労働委員会に不当労働行為の救済申立てと審査の実効確保の措置勧告の申立てを行い、同年六月から七月にかけて、栃木県、千葉県、神奈川県、愛知県、東京都、新潟県、埼玉県等の地方労働委員会から原告に対して、出向命令の実施について慎重に対処するよう求める勧告又は要望が出された。
(五) 国労東日本本部と原告は、同年六月から七月末までに数回にわたり出向についての団体交渉を行い、この間、東日本本部は、同年七月一六日付の文書で、合意のできていない出向については直ちに取り消し中止すること等を申し入れ、出向についての協約案を提案するなどしたが、出向の発令には、出向者本人の個別の同意が必要であるとする東日本本部と、これを不要であるとする原告の意見は対立したまま合意に至らなかった。
4(一) 原告は、同年六月一日、高崎運行部長名で、補助参加人組合員五名に対し、同月一六日付で出向させる旨の事前通知を発し(以下「第一次出向」という。)、また、同月一六日、補助参加人組合員二名に対し、同年七月一日付で出向させる旨の事前通知を発した(以下「第二次出向」という。)。
(二) 補助参加人組合は、同年五月二三日、六月二日及び同月一五日に、それぞれ文書で原告高崎運行部に対して、団体交渉による解決、出向の事前通知の撤回を申し入れるとともに、同月二三日、第二次出向について被告に対し不当労働行為の救済申立てと審査の実行確保の措置勧告の申立てを行った。
被告は、同月二七日付で、原告に対し、出向命令の実施については、現在被告において審査中であり、十分留意のうえ慎重を期せられたい旨の勧告書を交付した。
(三) 原告は、同年七月一六日、同月一七日及び同月二一日に、高崎運行部長名で、補助参加人組合員三二名に対し、同年八月一日付で(内一名のみは同月五日付で)、富士重工等に出向させる旨の事前通知を発した(以下「第三次出向」という。)。
(四) 補助参加人組合は、原告高崎運行部に対して、同年七月二〇日付の文書で、第三次出向命令の中止等を申し入れ、同月二一日、被告に対し、不当労働行為の追加申立てと審査の実行確保の措置勧告の申立てを行った。
被告は、同月二八日付で、原告に対し、出向命令の実施については、現在被告において審査中であり、十分留意のうえ慎重を期せられたい旨の勧告書を交付したが、原告は、後記の団交に応じたほか、特別の対策もとらなかった。
(五) 補助参加人組合は、原告高崎運行部に対し、同月三〇日付の文書で、第三次出向命令の中止、合意のできていない出向の取消し、団体交渉で協定が締結されるまで一方的な事前通知を見合わせること等を申し入れ、翌三一日には、団体交渉が行われたが、双方の意見は対立したままであった。
(六) 補助参加人組合は、同三一日、群馬地方労働組合評議会で組織される国労・差別不当労働行為反対闘争支援共闘会議の第一回常任委員会の決定を経て、補助参加人組合の独自行動として、同年八月一日に富士重工の門前でビラ配布等を行うことを決定し、補助参加人組合青年部長h(以下「h」という。)に当日の動員者の割当て等を指示した。
5(一) hを行動責任者として、補助参加人四名を含む補助参加人組合員二九名は、同年八月一日午前七時五分ころ、同組合の宣伝カーに分乗し、あるいは自家用車により、富士重工正門付近に集合した。
(二) 補助参加人組合員は、腕章を着用し、右同日午前七時一〇分ころから五〇分ころまでの間、富士重工の正門付近において、出勤してくる富士重工社員に対し、国労東日本本部が作成した会社の出向施策等を批判する内容のビラを配布した。その配布枚数は、補助参加人aが約五〇枚、同bが三、四枚、同cが二、三〇枚、同dが二、三枚くらいであった。
補助参加人組合員が、ビラ配布を行った場所は、富士重工の敷地内ではあるが、正門の外側であり、公道と接続していてその境界は不明確であって、日常公道と同様に使用されており、また、ビラの配布をめぐって補助参加人組合員と富士重工社員との間にトラブルはなく、社員の出勤及び業務の開始等に支障を生じることもなかった。
h、補助参加人bほか一名は、この間交替で、正門の道路反対側の富士重工社員駐車場付近に駐車した前記宣伝カーのスピーカーを使い、かなりの音量でマイクにより、原告の出向施策等の不当性を訴える趣旨の演説を行った。
(三) 富士重工総務課長iは、同日午前七時三〇分ころ、正門前で前記ビラを配布していた補助参加人cに対し、補助参加人組合員がビラを配布している場所が富士重工の敷地内であること、社員の通行の邪魔にならないよう道をあけること等を申し入れた。
その後、右i課長は、同日午前七時四〇分ころ、補助参加人cの案内で、宣伝カーの傍らにいたhのところに行き、社内放送及びミーティングが始まるので午前七時五〇分には演説等をやめてほしい旨申し入れたところ、hはこれを了承した。同課長は、更に、hに対し、補助参加人組合員がビラを配布している場所が富士重工の敷地内であること、再び同様の行動を行った場合には富士重工としては別の対応をとることを申し述べた。
(四) 同日午前七時五〇分ころ、原告から富士重工へ出向を命ぜられた者及び引率者が富士重工に到着し、正門から入門したが、その際、補助参加人組合員らは、出向者に向かって拍手をし、hの音頭で、「国労組合員がんばれ、出向者がんばれ、強制出向反対」などとシュプレヒコールを行った後、同日午前八時前ころに現地で解散した。
6(一) 原告高崎運行部次長eは、右同日午前九時ころ、同運行部総務課長jから、本件行動についての報告を受け、同日午前一〇時一〇分ころ、富士重工を訪れ、同社のf総務部長、i総務課長らと面会し、本件行動について陳謝した。その際、f部長は、e次長に対し、「初日にこんなことがあって社員の間に動揺が出るのではないかと心配しています。」「もし、今後何か、また起きれば出向の受け入れについて考え直させて頂くかもしれません。」「もう二度とこのような事が起きないように是非お願い致します。」と述べた。
(二) 原告は、同日午後三時ころ、高崎運行部長名の文書で、補助参加人組合に対し、本件行動が極めて遺憾な行為であり厳重に抗議するとの申入れを行った。
(三) 原告は、本件行動は、原告の重要な施策である出向制度の遂行に多大な支障を来すおそれのあるものであると同時に、原告の信用を著しく失墜せしめた行為であると判断し、調査の結果、本件行動に参加していたことが判明した補助参加人四名に対し、本件懲戒処分をした。
7(一) 原告の就業規則に定める懲戒処分は、懲戒解雇、諭旨解雇、出勤停止、減給、戒告の五種類であり、懲戒を行う程度に至らないものに対しては訓告をなすものとされている。
(二) 出勤停止は、三〇日以内の期間を定めて出勤を停止するものであり(停止期間の賃金は支給されない。)、減給は、賃金の一部を減ずるものである。原告の賃金規程によれば、両処分ともに、処分がなされると、当該処分がなされた時期の期間内を対象とする期末手当が減額されるとともに、処分直後の昇給額も減額されることとなっているが、期末手当、昇給ともに、出勤停止の方が減給よりも減額率が高く定められているうえ、期末手当の算定に当たっては、出勤停止期間は欠勤扱いとされて、この点も減額の対象となるものであるから、出勤停止は、減給より重い処分である。
(三) 補助参加人四名は、本件懲戒処分により、五日間の出勤が停止されたうえ、原告の賃金規程に基づき、別表記載のとおり、出勤停止期間に相当する賃金が支給されないことはもちろんのこと、昭和六二年度の年末手当が一定の割分で減額され、処分に最も近接した昇給である昭和六三年四月における昇給号俸が一定の割合で減ぜられる等の不利益を被っている。
8(一) 原告の常務理事kは、昭和六二年五月二五日、昭和六二年度経営計画の考え方等説明会において、「おだやかな労務政策をとる考えはない。反対派はしゅん別し断固として排除する。等距離外交など考えてもいない。処分、注意、処分、注意をくりかえし、それでも直らない場合は解雇する。」などと発言した。
(二) 原告の高崎運行部運輸課課長代理lは、同年八月六日、高崎車掌区講習室における運転事故防止会議の席上、本件行動に関し、「国労はそういう運動をやっている。絶対に許せない。断固、こういうものとは、我々は対抗していきます。労使協調ということをなしとげるためには一企業一組合なんですよ。」などと発言した。
三 そこで、本件懲戒処分が、不当労働行為に該当するか否かについて判断する。
1 前記認定によれば、原告にとって、出向制度は極めて重要な施策であったものであるところ、本件行動は、このような出向制度に真っ向から反対する補助参加人組合の宣伝活動であるが、前記のとおり、第三次出向の初日に、出向の受入先企業にすぎない富士重工の正門前で、同社所有地にわたって、その社員が出勤する際、多人数の組合員により、スピーカー等を使用し、ビラを配布したうえ、シュプレヒコールをしたものであるから、本件行動により富士重工が少なからぬ迷惑を被ったこと、このため富士重工の原告に対する信頼が低下したことは明らかであり、そうすると、本件行動は、富士重工におけるその後の出向受入れに支障を来すおそれのある行動であったものといわざるを得ない。しかしながら、前記認定によれば、原告と補助参加人組合とは、本件行動以前から、原告の出向制度の是非やその運用をめぐって対立を続けてきていたものであるから、このような経過に照らせば、同組合が、労働組合として、正当な方法により右出向制度に反対する宣伝行動を行うことは補助参加人組合の権利であること、本件行動にかかる第三次出向については、昭和六二年七月二一日に、同組合から被告に対し、不当労働行為救済の申立てがなされ、本件行動より前である同月二八日付で、被告から原告に対し、出向命令の実施については、被告において審査中であり、十分留意のうえ慎重を期せられたい旨の勧告書が交付されていたこと、それにもかかわらず、原告は、特段の対策もしないまま予定通り第三次出向を実施したものであること、したがって、右出向の実施については、使用者としての原告にも問題がなかったとはいえないものであること、補助参加人組合が、出向先企業の敷地内において出向制度に反対する宣伝行動を行ったのは、本件行動が最初であったこと、本件行動が行われた場所は、富士重工の敷地内ではあるものの、正門の外側に位置していて一見すると公道との境が不明確であって、本件行動に参加した者において、右場所が公道であると判断したとしても無理のない場所であったこと、本件行動において配布されたビラは、もともと国労東日本本部が作成したもので、補助参加人組合による他の宣伝行動でも使用されているものであり、その内容が出向制度に対する国労東日本本部の見解を表明するとともに、各地の労働委員会において救済命令が発令されているという事実を記載した部分がほとんどであって、その内容は必ずしも不相当なものではないこと、本件行動自体は、富士重工社員の指示に従って、同社員の出勤に支障のない態様でなされ、時間にして五〇分くらいであって、同社の始業開始前に終了したものであること、それゆえ、現実には右当日の同社の業務遂行に何ら具体的な支障を与えなかったものであり、これらの事由に、右に認定したところの、補助参加人組合の本件行動に至った経緯及び本件行動の具体的態様等に照らすならば、本件行動は、原告の就業規則に定める懲戒事由に該当するものとしても、その非違の程度は比較的低いものであったと評価し得るものである。
2 ところが、本件懲戒処分は、前記のとおり、原告にとってその出向制度が極めて重要な施策であることを十分考慮に入れても、五日間の出勤が停止されるのみならず、処分後の期末手当の支給額や、その後の昇給にも影響を及ぼすものであって、懲戒処分としては、右認定した本件行動の非違の程度に照らすと不当に重いものであるというべきである。そして、原告と国労及び補助参加人組合との間には、出向制度その他の原告の施策をめぐって深刻な対立が継続してきていることは、前認定のとおりであるから、このような背景事情に原告の常務理事等の前記言動に照らすならば、本件懲戒処分は、原告において、本件行動の責任者でもない補助参加人四名が本件行動に参加したことを理由として、懲戒処分に名を借りて、補助参加人組合員たる右四名を、同組合員であることをもって不利益に扱うとともに、これにより、同組合の組織の分裂ないしは弱体化を図ったものであると推認されるものであり、したがって、本件懲戒処分は、労働組合法第七条第一号及び第三号所定の不当労働行為に該当するものといわねばならない。
そうすると、原告に対し、本件懲戒処分を取り消し、補助参加人四名を本件懲戒処分がなかったのと同様に取り扱うことを命じた本件命令主文第一項には、原告の主張するような事実誤認の違法はなく、また、本件懲戒処分が被告により不当労働行為であると認定されたことを内容とする掲示を命じた本件命令主文第二項も、補助参加人組合及び同参加人四名に対する救済方法として相当なものというべきである。
四 以上の次第で、原告の請求は理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川波利明 裁判官 高橋祥子 大久保正道)
別紙 命令書
高崎市<以下略>
申立人 国鉄労働組合高崎地方本部
執行委員長 m
高崎市<以下略>
申立人 a
前橋市<以下略>
申立人 b
埼玉県熊谷市<以下略>
申立人 c
埼玉県本庄市<以下略>
申立人 d
東京都千代田区<以下略>
被申立人 東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役 n
上記当事者間の群地労委昭和六二年(不)第八号不当労働行為救済申立事件について、当委員会は、会長公益委員o、公益委員p、同q、同r、同s出席の公益委員会議において合議のうえ、次のとおり命令する。
主文
一 被申立人は、申立人a、同b、同c及び同dに対し昭和六二年九月二九日付で行った五日間の出勤停止処分をそれぞれ取り消し、次の措置を含め、同処分がなかったと同様の取扱いをしなければならない。
(1) 上記申立人ら四名に対し、同処分がなかったとすれば受けるはずであった賃金(扶養手当及び住宅手当を含む)及び一時金相当額を支払うこと。
(2) 上記申立人ら四名に対し、同処分を理由として、昇給、一時金、昇進の決定にあたり不利益に取り扱わないこと。
二 被申立人は、本命令書交付の日から七日以内に、縦一メートル、横一・五メートルの白色木板に下記のとおり楷書で墨書し、被申立人高崎支社庁舎正面入口の見易い場所に一〇日間掲示しなければならない。
記
会社が昭和六二年九月二九日付で、貴組合の組合員a氏、同b氏、同c氏及び同d氏に対して行った五日間の出勤停止処分は、不当労働行為であると群馬県地方労働委員会により認定されました。
今後このような行為を行わないよう十分留意します。
平成 年 月 日
国鉄労働組合高崎地方本部
執行委員長m殿
a 殿
b 殿
c 殿
d 殿
東日本旅客鉄道株式会社
代表取締役 n
(注:年月日は掲示の初日とする。)
3 被申立人は、第一項の(1)及び前項に命ずるところを履行したときは、遅滞なく当委員会に文書で報告しなければならない。
理由
第一認定した事実
1 当事者等
(1) 被申立人東日本旅客鉄道株式会社(以下「会社」という。)は、昭和六二年四月一日、日本国有鉄道改革法に基づき、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)が経営していた旅客鉄道事業のうち、東日本地域(北海道を除く青森県から静岡県の一部までの一都一六県)の事業を承継して設立され、肩書地に本社を置き、審問終結時の従業員数は約八二、五〇〇名である。
会社は、その業務を遂行する組織の一つとして高崎支社(本件申立時は高崎運行部)を置き、審問終結時の従業員数は約四、四〇〇名である。
(2) 申立人国鉄労働組合高崎地方本部(以下「申立人組合」という。)は、申立外国鉄労働組合(以下「国労」という。審問終結時の組合員数約三八、〇〇〇名)及びその下部の労働組合である申立外国鉄労働組合東日本本部(以下「東日本本部」という。審問終結時の組合員数約二一、七〇〇名)に所属する組合員のうち、会社の高崎支社管内の地域(群馬県及び隣接する栃木、長野、埼玉の各県の一部)に勤務する会社の社員等で組織する国労及び東日本本部の下部の労働組合であって、審問終結時の組合員数は一、〇二三名である。
(3) 申立人a(以下「a」という。)、同b(以下「b」という。)、同c(以下「c」という。)及び同d(以下「d」という。)は、会社の社員であり申立人組合の組合員である。
(4) 会社には、上記東日本本部のほか、東日本旅客鉄道労働組合(以下「東鉄労」という。審問終結時の組合員数約五四、二〇〇名)及び東日本鉄道産業労働組合(以下「鉄産労」という。審問終結時の組合員数約五、七〇〇名)等の労働組合がある。
なお、高崎支社管内には東鉄労高崎地方本部(審問終結時の組合員数約二、九四〇名)及び鉄産労高崎地方本部(審問終結時の組合員数約四四〇名)等の労働組合がある。
2 昭和六二年八月一日までの出向をめぐる労使関係
(1) 東日本本部と会社について
<1> 会社は、昭和六二年五月、国鉄から承継した債務の返還及び経営の安定化、健全化のため、設立当初から社員の一割強にあたる余力人員を抱えていることを背景に、関連会社の指導、育成、民間企業にふさわしい人材の育成等を図るとして、社員を関連会社等へ出向させることを各労働組合に提案した。
<2> 東日本本部は、国鉄時代に余剰人員対策の一つとして実施された派遣制度においては、派遣される職員の個別の同意が必要とされていたこと等を踏まえ、五月二五日付の文書で、出向は募集により行うこと、強制強要はしないこと等を会社に申し入れたが、会社は、就業規則、出向規程等により人事の一環として行うとの見解を示し、五月中に三回の団体交渉が行われたが、両者は合意に至らなかった。
なお、会社は、五月二九日の団体交渉の席上、六月一五日以降出向を実施する旨東日本本部に通告した。
<3> 国労の各地方本部等は、出向の実施に対して、各地の地方労働委員会に不当労働行為の救済申立てと審査の実効確保の措置勧告の申立てを行い、六月から七月にかけて、栃木県、千葉県、神奈川県、愛知県、東京都、新潟県及び埼玉県等の地方労働委員会から会社に対して、出向命令の実施について慎重に対処するよう求める勧告または要望が出された。
<4> 東日本本部と会社は、六月から七月末まで数回出向について団体交渉を行い、この間東日本本部は七月一六日付の文書で、合意のできていない出向については直ちに取り消し中止すること等を申し入れ、出向についての協約案を提案するなどしたが、出向の発令には本人の個別の同意が必要であるとする東日本本部と、不要であるとする会社の意見は対立したまま、合意に至らなかった。
(2) 申立人組合と高崎運行部について
<1> 会社は、六月一日、高崎運行部長名で、申立人組合員五名に対し、同月一六日付で出向させる旨の事前通知を発し(以下「第一次出向」という。)、また、同月一六日、申立人組合員二名に対し、七月一日付で出向させる旨の事前通知を発した。(以下「第二次出向」という。)
<2> 申立人組合は、五月二三日、六月二日、同月一五日、それぞれ文書で高崎運行部に対して、団体交渉による解決、出向の事前通知の撤回等を申し入れ、六月二三日、第二次出向について当委員会に対し不当労働行為の救済申立てと審査の実効確保の措置勧告の申立てを行った。(現在、群地労委昭和六二年(不)第四号事件として係属中。)
当委員会は、六月二九日、会社に対し、出向命令の実施については、現在当委員会において審査中であり、十分留意のうえ、慎重を期せられたい、との勧告書を交付した。
<3> 会社は、七月一六日、同月一七日及び同月二一日にわたり高崎運行部長名で、申立人組合員三二名に対し、八月一日付(一名のみ八月五日付)で富士重工業株式会社伊勢崎製作所(以下「富士重工」という。)等に出向させる旨の事前通知を発した。(以下「第三次出向」という。)
<4> 申立人組合は、高崎運行部に対して、七月二〇日付の文書で、第三次出向の発令中止等を申し入れ、同月二一日、当委員会に対し、不当労働行為の追加申立てと審査の実効確保の措置勧告の申立てを行った。(第一次出向については、同月二八日に追加申立てを行った。)
当委員会は、同月三〇日、会社に対し、出向命令の実施については、現在当委員会において審査中であり、十分留意のうえ、慎重を期せられたい、との勧告書を交付した。
なお、第一次出向から第三次出向までの出向発令者の大半は申立人組合員であり、富士重工への出向発令者一五名のうち一三名が申立人組合員であった。
<5> 申立人組合は、高崎運行部に対して、同月三〇日付の文書で、第三次出向発令中止、合意のできていない出向の取消、団体交渉で協定が締結されるまで一方的な事前通知を見合わせること等を申し入れ、翌三一日には団体交渉が行われたが、双方の意見は対立したままであった。
<6> 七月三一日、申立人組合は、群馬地方労働組合評議会で組織される、国労・差別不当労働行為反対闘争支援共闘会議の第一回常任委員会の決定を経て、申立人組合の独自行動として、八月一日に富士重工門前でビラ配布等を行うことを決定し、申立人組合青年部長h(以下「h青年部長」という。)に当日の動員者の割当等を指示した。
3 八月一日の申立人組合員の行動(以下「本件行動」という。)
(1) 八月一日、申立人ら四名を含む申立人組合員二九名は、申立人組合の宣伝カー等に分乗し、午前七時五分頃、富士重工正門入口付近に集合した。
同時刻、定例の安全ビラを配布しようとしていた富士重工労働組合の執行委員二名は、申立人組合員の姿を認め、h青年部長にどういうことで来たのか尋ね、富士重工の社員駐車場に駐車してあった申立人組合員の車を富士重工社員の出勤に支障をきたさないよう移動させるように言って正門前に戻り、出勤してくる富士重工社員に安全ビラを配布した。
(2) 申立人組合員は、腕章を着用し、七時一〇分頃から五〇分頃まで、正門付近で、出勤してくる富士重工社員に、東日本本部の作成した、会社の出向施策等を批判する内容のビラ(甲第二号証)を配布した。
なお、申立人組合員がビラ配布を行った場所は富士重工の敷地内であるが、正門の外であり、公道との境界は不明確で、通常は道路と同様に使用されており、ビラの配布をめぐって申立人組合員と富士重工社員との間にトラブルはなく、社員の出勤及び業務の開始等に支障が生じることもなかった。
また、申立人組合員が配布したビラは、以前会社駅頭で配布されたこともあったが、会社はこれに対して処分を行っていない。
(3) h青年部長、bら申立人組合員三名は、この間、交替で、正門の道路反対側の富士重工社員駐車場付近に駐車した宣伝カーのスピーカーを使い、マイクにより、会社の出向施策等の不当性を訴える趣旨の演説を行った。
(4) 富士重工の総務課長i(以下「i総務課長」という。)は、七時三〇分頃、正門前でビラを配布していたcに、申立人組合員がビラを配布している場所が富士重工の敷地内であること、社員の通路の邪魔にならないよう少しあけること等を申し入れた。
その後、i総務課長は、七時四〇分頃、cの案内で、宣伝カーの傍らにいたh青年部長のところに行き、社内放送及びミーティングが始まるので七時五〇分には演説等をやめてほしい旨申し入れ、h青年部長はこれを了解した。また、i総務課長は、申立人組合員がビラを配布している場所が富士重工の敷地内であること、再び来た場合は本日とは別の対応をとること等をh青年部長に伝えた。
(5) 七時五〇分頃、富士重工への出向者及び引率者が富士重工に到着し、正門から入門した。
その際、申立人組合員は、出向者に拍手をし、「国労組合員がんばれ、出向者がんばれ、強制出向反対」などとシュプレヒコールを行い、出向者等が入門した後、八時直前に現地で解散した。
(6) 午前一〇時一〇分頃、高崎運行部次長e(以下「e次長」と言う。)らは、出向者を引率していた同運行部総務課員から本件行動についての報告を受けて富士重工を訪れ、本件行動について陳謝した。
その際、富士重工のf総務部長は、「何か工場の方とのトラブルはございませんでしたでしょうか。」とのe次長の発言に対し、「そういったものはありません。ただ、前回の国鉄さんから来て頂いた方は皆さんすばらしい方ばかりだったので今度も社員一同楽しみにしていたのですが、初日にこんなことがあって社員の間に動揺が出るのではないかと心配しています。私が何か話をしてやらなければならないかなと思っています。もし、今後なにか、また起きれば出向の受け入れについて考え直させて頂くかもしれません。会社のイメージの問題にもつながりかねませんし。」「いずれにしても、今回は突然の事でしたがもう二度とこのような事が起きないよう是非お願い致します。」などと発言した。
なお、その後、本件行動について、付近住民から富士重工に対して苦情や問合せ等はなく、富士重工社員から富士重工に対して、何だったんだ、というような問合せが幾つかあった。
また、富士重工は、本件行動について、会社に対して申入れ等は行わなかった。
(7) 午後三時頃、会社は高崎運行部長名の文書で、申立人組合に対し、本件行動が極めて遺憾な行為であり厳重に抗議するとの申入れを行った。
4 本件行動前後の会社管理職の言動及び本件行動に対する会社の対応等
(1) 五月二五日、会社のk常務取締役は、昭和六二年度経営計画の考え方等説明会で、「会社にとって必要な社員、必要でない社員のしゅん別は絶対に必要なのだ。会社の方針派と反対派が存在する限り、特に東日本は別格だが、おだやかな労務政策をとる考えはない。反対派はしゅん別し断固として排除する。等距離外交など考えてもいない。処分、注意、処分、注意をくりかえし、それでも直らない場合には解雇する。人間を正しい方向へ向ける会社の努力が必要だ。」などと発言した。
(2) 八月五日、会社は人事部長名の文書で、東日本本部に対して、本件行動について、このような悪質な行為に対しては、その指導者及び社員個人に対しその責任を厳しく追求することを通告する、との申入れを行った。
(3) 八月六日、東鉄労の定期大会に来賓として出席した会社のn社長は、「いまなお民営・分割反対を叫んでいる時代錯誤の組合もある。これは形を変えた親方日の丸意識だ。」「迷える子羊を皆さんが救っていただきたい。呼びかけ、説得し、皆さんの仲間に迎え入れてもらいたい。」などと発言した。
(4) 八月六日、高崎運行部運輸課のl課長代理は、同日午後一時から三時まで高崎車掌区講習室で行われた運転事故防止会議の席上、本件行動についてとりあげ、「国労はそういう運動をやっている。絶対に許せない。」「断固、こういうものとは、我々は対抗していきます。」「労使協調ということをなしとげるためには一企業一組合なんですよ。」「一企業一組合は早くやるべきなんです。ただ我々がやるんではないんです。皆さんがやってくれなければ困る。私どもがやったら不当労働行為になります。」「一企業一組合をめざしてどこの組合はどこへ行けと言ったら不当労働行為です。ですから私はこれ以上言いません。我々としては一企業一組合は絶対に望んでいるんです。それだけは皆さん忘れてもらっては困る。」などと発言した。
(5) 八月三一日、会社は高崎運行部長名の文書で、本件行動後の申立人組合の街頭宣伝等の活動に対し、正当な組合活動として認め難い等の申入れを行った。
(6) 九月二九日、会社は高崎運行部長名で、a、b、c及びdに対し、本件行動に参加したことを理由に五日間出勤を停止する旨の発令通知を交付した。(以下「本件処分」という。)
5 本件処分により申立人ら四名が受けた不利益
申立人ら四名は、本件処分により、昭和六二年一〇月、同年一一月及び同年一二月分の賃金から、扶養手当及び住宅手当を含む出勤停止期間中の賃金相当額を減額され、同年年末一時金も減額された。
また、同処分が原因で、昭和六三年四月一日付の昇給において所定昇給号俸を二号俸減俸され、これに伴い、同年夏季一時金も減額された。
さらに、a及びdは昭和六三年九月二日から同月六日にかけて行われた昇格、昇職試験を、本件処分により受験資格を失い、受験できなかった。
第二判断及び法律上の根拠
1 当事者の主張
(1) 申立人らの主張
<1> 申立人組合は、第一次ないし第三次の出向命令が不当労働行為に該当するとして、群馬県地方労働委員会に対し救済申立てと審査の実効確保の措置勧告の申立てを行ったが、会社が申立人組合の強い反対や同委員会の二度にわたる勧告にもかかわらず第三次出向命令を強行する姿勢を示したことから、団結維持について強い危機感を抱き、会社への抗議等を行うとともに、本件行動を行ったものである。
<2> 配布したビラの内容及びこれと同旨の内容を含むマイク情宣は真実に沿うもので何ら不当な点はなく、現場において何の混乱も生じていない等、本件行動には正当な組合活動を逸脱している点は全くない。
<3> 本件処分は第一次ないし第三次の出向命令を申立人組合の反対を押し切って強行した会社が、これらに対する申立人組合の具体的な反対運動を押さえつけるために行ったものであり、申立人組合の正当な組合活動を嫌悪し、単に要請を受けて活動に参加したにすぎない者に対しても厳しい不利益を課すことを通して申立人組合の団結の破壊ないしは弱体化を意図したものであって、労働組合法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為である。
(2) 会社の主張
<1> 出向は、発足当初から膨大な余力人員を抱えた会社にとって必要かつ重大な施策であり、高崎運行部においても順次出向を実施し、国鉄時代にも職員が派遣されており引続き出向の要請があった富士重工に、昭和六二年八月一日付で一五名の出向を発令した。
なお、出向発令を行うについては、群馬県地方労働委員会の勧告を真摯に受けとめ慎重に対処してきたものである。
<2> 申立人ら四名を含む二〇数名の申立人組合員は、八月一日、出向社員の受入れ式を予定していた富士重工に押しかけ、同社の許可を得ずに同社敷地内に立ち入り、その正門前で、会社の出向施策が法律上許されない行為であるとの一方的主張を記載したビラを出社してくる富士重工社員に配布し、かつ、同社の南側駐車場に宣伝カーを停めて、マイク、スピーカーを使用して音量を上げて、会社の出向施策と富士重工が出向を受け入れたことを批判する趣旨の演説を、午前七時過ぎ頃から七時五〇分まで三名が交替してほとんど途切れることなく継続して行い、さらに、七時五〇分直前に出向者を乗せた車が到着すると演説をシュプレヒコールに切り替え、マイク、スピーカーを用いて、強制出向反対等のシュプレヒコールを繰り返し行った。
<3> 出向者の受け入れ先である富士重工で行われた上記のような本件行動は、付近住民に迷惑をかけるとともに、あたかも富士重工が非難さるべき労務政策を行い富士重工においても労使紛争があるかの印象を与え、ひいては富士重工の企業イメージを損う虞れを生じさせ、会社からの出向社員を受け入れて共に働こうとしていた富士重工の社員に対しては、会社内部の労使紛争を富士重工にも波及させるのではないか等の不安を抱かせるなど富士重工に多大の不利益を与えるものであり、会社と富士重工の信頼関係に重大な影響を及ぼし、会社の社会的信用を著しく失墜させたものである。
<4> また、本件行動の真の目的は、出向社員が富士重工に到着する時刻を予め知らされていたにもかかわらず、その約五〇分も前から始められ、出向社員到着後はきわめて短時間で解散した経緯と演説等の内容からみて、出向社員の激励を目的としていたものではなく、出向先の富士重工に前記のような迷惑を与え、ひいては出向の受け入れを考え直させることにあったことは明らかである。
<5> 以上のように、申立人らの行動は、その目的、内容及び態様からみて正当な組合活動には該らず、会社就業規則に定める懲戒処分事由に該当する行為であるから、現認のできた申立人ら四名に対し昭和六二年九月二九日付で五日間の出勤停止を発令したものであり、何ら不当労働行為には該らない。
2 判断
(1) 本件行動の正当性について
会社は、本件行動は、出向の受入れ先である富士重工の敷地内で、会社の出向施策が法律上許されない行為であるとの一方的主張を記載したビラを配布し、会社の出向施策とこれを受け入れた富士重工を非難する演説等を行うなどして、付近住民に迷惑をかけ、富士重工に多大の不利益を与え、会社の社会的信用も著しく失墜させたものであり、正当な組合活動に該らないと主張する。
しかしながら、<1> ビラの配布等が行われた場所は、認定した事実3の(2)のとおり、正門の外であり、一応富士重工の敷地内であるとはいえ、一見して公道との境界が識別できる状態ではなく、通常は道路と同様に使用されていたこと。<2> 認定した事実3の(2)のとおり、ビラ配布等により富士重工社員の出勤及び業務の開始等に支障は生じていないこと。<3> 認定した事実3の(4)及び(5)のとおり、i総務課長の申入れを受けて、富士重工の業務開始までには本件行動をやめていること。<4> 認定した事実3の(1)ないし(5)のように、本件行動について富士重工側と申立人組合員との間にトラブルは生じていないこと。 などの点からみて、本件行動によって富士重工に施設管理上及び業務遂行上格別の支障があったとは認められない。
さらに、上記<1>ないし<4>に加えて、<5> ビラは、認定した事実2のような労使対立の中で作成されたもので、措辞表現等も対立当事者のものとして特に過激にわたる点もなく、認定した事実3の(2)のとおり、会社は会社駅頭での同内容のビラ配布に対しては格別処分を行っていないこと。<6> 演説等の内容も、認定した事実3の(3)のとおり、会社の出向施策等の不当性を訴える趣旨のものであり、富士重工を非難攻撃するものではないこと。<7> 認定した事実3の(6)のとおり、富士重工が本件行動を多少迷惑と感じたことは窺えるものの、本件行動について付近住民から富士重工に対して苦情や問合せ等はなく、富士重工社員から富士重工に対して幾つか間合せがあった程度で、富士重工も会社に対して格別申入れ等は行っていないこと。 などの点も総合して考えれば、本件行動が富士重工の企業イメージ、富士重工と会社との信頼関係に及ぼした影響も会社が主張するような重大なものであったとは認め難く、会社の社会的信用を著しく失墜させたとの主張は採用できない。
なお、会社は、本件行動の目的が、富士重工に迷惑を与え、ひいては出向の受入れを考え直させることにあったと主張するが、認定した事実2のとおりの本件行動を行うことを決定するに至った経緯及び認定した事実3の(1)ないし(5)のような本件行動の態様等からみて、本件行動は、出向する申立人組合員の激励とともに、会社の出向施策をめぐる紛争の実情及び申立人組合等の立場を出向先である富士重工の社員に訴えたものと考えるのが相当であり、会社の主張は採用できない。
(2) 不動労働行為の成否について
以上のとおり、本件行動に正当な組合活動を逸脱している点は認められず、本件行動に参加したことを理由とする本件処分は、認定した事実4にみられる会社管理職の言動及び本件行動に対する会社の対応等も併せ考えると、申立人ら四名を組合活動を理由に不利益に扱い、もって申立人組合の弱体化を図ったもので、労働組合法第七条第一号及び第三号に該当する不当労働行為であると判断せざるをえない。
(3) 救済方法について
申立人らは、陳謝文の手交、掲示及び社報への掲載を求めるが、主文の救済をもって足りると判断する。
3 法律上の根拠
以上の事実認定及び判断に基づき、当委員会は、労働組合法第二七条及び労働委員会規則第四三条を適用して主文のとおり命令する。
平成元年三月二三日
群馬県地方労働委員会
会長 o(印)